はんだ理論(2)

 金属の結晶構造を前に示しましたが、原子同士がバラバラでは結晶構造にはなりません 結晶化するための原子間距離と各原子のポテンシャルエネルギーの関係を考えてみましょ う。図 2 に 2 つの原子間の距離とその間に働くポテンシャルエネルギーの関係を表した図 を示します※1。

 グラフの右方向を見ると引力と斥力の合力であるポテンシャルエネルギーがマイナスに なっています。

すなわち原子の距離が離れている場合は原子間に引力が働くことが分かり ます。

ただし、A 点のような原子間距離が離れすぎているとその引力は非常に弱いもので 0 に近くなっています。よって原子間距離が離れすぎている場合は互いの原子をひきつける 力はほとんどありません。よって原子が結合することはありません。

そこから何らかの力 が働き原子間距離が近づくと引力のほうが斥力より強くなり、ポテンシャルエネルギーが 指数関数的に急激にマイナス方向(エネルギーが安定する方)に向かうことがわかります。 すなわち原子間距離が近づいていくに従い引力が強くなり原子同士が急激に近づきます。

 原子を引きつける力は B 点で最高になり(ポテンシャルエネルギーは最低になり)それ以 上近づこうとすると斥力が指数関数的に急激に増えてポテンシャルエネルギーも指数関数 斥力 引力 ポテンシャルエネルギー 原子間 距離 相互ポテンシャル エネルギー 的にプラスになってしまい、それ以上原子が接近することが難しくなります。すなわち2 つの原子を考えたモデルでは B 地点の距離が最も安定な距離だということになります。 銅の結晶を考えると、複数の銅原子のポテンシャルエネルギーが安定な位置となって収 まったのが図 1 の面心立方格子の形だということになります。

 すなわち金属が結晶になるためには、引力が働く距離まで原子が近づくことが必要にな ります。工業的に金属を結晶化させる力(原子を近づけるエネルギー)は主に熱エネルギ ーが用いられます。金などの柔らかい金属には圧力が用いられることもあります。 固体金属の表面は平坦ではなく凹凸があります。凹凸のある金属(A)と金属(B)を 2 種類の金属を結合する場合、図 3 に示すように原子同士の距離は場所により異なります。 

 図 3 より、固体金属同士を結合させる場合、互いの原子の距離が短くなることが重要な のです。図 3 では結合に関与できない原子が大部分なので、金属(A)と金属(B)は結晶 になる事はできません。その場合、一般的には金属を融かして原子同士を一度ばらばらに して原子同士が結合できる距離(ポテンシャルエネルギーが働く距離)まで近づけている のです。(金の場合は延性があるので圧力により互いの原子を近づける方法も取れます。)

 金属を融かして原子間距離を短くして結合さる場合、金属を融かす温度が重要になりま す。

 銅の融点は 1083℃、銀は 961℃と非常に高いのですがはんだは 200℃前後と低いので、 低い温度で融けるはんだを使って 2 つの固体の金属を接合させるのがはんだ付けの考えか たです。はんだの役割については後の項でもう少し詳しく説明します。

 次回は金属結晶について内部原子と表面原子の違いがどのように結合に影響するか学ん でいきましょう。 ※ 1 レナード=ジョーンズ・ポテンシャル モデルに引力と斥力を加えた図です