はんだ理論(1)

 はんだ付けは「ろう付け」の 1 種です。金属を溶かして接続する方法には「ろう付け」 以外にも「溶接」があります。「ろう付け」と「溶接」の違いを下に示します。

 

  •  溶接 : 2 つ以上の部材を溶融して一体化させること。
  • ろう付け : 材料の接合面のすきまに、ろうとよばれる母材より融点の低い金属を溶か して接合すること。

 

 すなわちろう付けには接合する部材とは別の金属を用いています。よって「はんだ付け」 は「ろう付け」の一つになります。「ろう付け」には融点が 450℃以上の「軟ろう」を使う ものと 450℃以上の「硬ろう」を使うものがあります※1。一般的なはんだは融点が 450℃以 下ですので「軟ろう」の部類に入ります。「ろう付け」は接着剤による接続のイメージに近 いです。 古い定義では「溶接」は固体材料間に直接的な原子間結合を生じさせることによって接 合する方法で「ろう付け」は母材自体を溶融させずに複数の部材を接合させること。とな っていますが、実際には「ろう付け」においても少しではありますが母材も溶融してろう 材と原子間結合を生じて合金化していますので、この古い定義は正確では無いといえます。 「はんだ付け」を含む「ろう付け」は「ろう材」母材が溶けて合金を作ることで接合され ていると考える必要があります。はんだの科学(その 9)で示したように、Cu をはんだ付 けするときには、Sn と Cu の間で Cu6Sn5(η相)や Cu3Sn(ε相)の合金ができている ことが必要です。(「はんだの科学その(9)」図 1 参照)

 では、「どうしてはんだで異種金属が原子間結合を生じ合金化するのか?」まずは、金属 の結合の仕組みを原子までさかのぼって考えてみましょう。 

金属の原子構造

 はんだ付けする物質もはんだも金属です。はんだ付けにおいてははんだと金属との合金 化が必要であることを前に述べました。ここでは金属の結合のメカニズムを考えるために 金属の構造について理解する必要があります。 アモルファス金属と呼ばれる金属は原子の位置が規則正しくない配列で、自由な場所に 金属原子がある状態です。しかしアモルファスな金属はあまり存在せず、一般的な金属は 規則正しく 3 次元的に原子が整列した構造をしています。この規則正しい配列をした金属 を結晶と言い、ほとんどの金属は図 1 に示す 3 種類の結晶構造に分類されます。 導体に良く使用される Cu、Ag やめっきに使用される Au は全て面心立方格子※2 です。

 体心立方格子※3 には Fe、Cr、Mo などがあり、六方最密充填構造※4には Ti、Mg、Sn など の金属があります。 通信ケーブルに良く使われる銅は面心立法格子で、銅原子は図 1 に示す○の位置に配置 して銅の結晶になっています。逆に原子がこの位置から大きく離れていると結晶にはなら ないことになります。

 金属原子の大きさは金属により差はありますが、銅では原子半径が約 0.128nm、共有結 合半径は約 0.132nm、銀は原子半径が約 0.144nm、共有結合半径は約 0.145nm です。原 子半径と結合半径にほとんど差がありません。結晶は隣の原子と非常に近い状態なのがわ かります。

 図1は大きな結晶の一部を抜き出した一つの単位を表したものです。実際の結晶はこの 形が 3 次元に広がった構造です。 次回は原子同士が結合するエネルギーについて説明します。

 

※ 1 MIL 規格では 429℃(800○F)以上が「硬ろう」429℃以下が「軟ろう」と分 類されます。

※ 2 FCC(Face-Centered Cubic)とも表記されます。 近接する原子は 12 個で充填率 74%の最密充填です。

※ 3 BCC(Body-Centered Cubic)とも表記されます。 近接する原子は 8 個で充填率 68%で最密充填ではない構造です。

  アルカリ金属に多い構造です。

※ 4 HCP( Hexagonal Close-Packed Structure)面心立方格子と同じく近接する ) 原子が 12 個で充填率 74%の最密充填構造です。