はんだ理論(6)

 前回、金属の拡散について説明しましたが、拡散が起こるメカニズムをもうすこし深く 考えていきましょう。 拡散については“Fick”が 2 つの法則を導き出しています。

 Fick の第 1 法則を下に示しま す。 

(4)式から拡散する量は濃度勾配に比例する(濃度が高いほうが拡散しやすい)というこ とがわかります。)

(4)式はある位置での濃度の 1 階微分ですので、その位置での濃度勾配 を表しています。

 

 Fick の第 2 法則は下になります

(5)式は、ある場所の濃度の時間的変化を求める式で、逆に濃度の時間的変化から拡散係 数を求めることもできます。(5)式はある位置での濃度の 2 階微分になりますので、その 位置の近傍での濃度勾配の位置による変化の大きさを表しています。※1

 

 また拡散係数を求めるために、温度と活性化エネルギーを用いたアレニウスの式(化学 反応の速度を予測する式)を下に示します。 

(6)式より拡散定数は絶対温度に比例する指数関数関係であるとわかります。 固体金属であっても、洗浄された表面状態の金属同士ならば常温でも接触していた場合 は拡散がおき、数日で接合する場合もあります。

 

 しかし(6)式のように温度が上昇すると 拡散係数が急激に上がり、個体金属への、はんだ侵入が促進されることがわかります。

選択拡散

 前述で拡散は濃度勾配や温度が関係することがわかりましたが、金属の種類によって拡 散のしかたは変わります。共晶はんだは Pb と Sn の合金ですが銅への拡散は Pb と Sn で全 く異なります。

 

 このように特定の元素が優先的に拡散することを選択拡散と言い、合金の 場合は合金の構成比で拡散していかないことに注意しければいけません。 共晶はんだの場合、Pb はほとんど銅の内部へ拡散できないので、Sn が銅の中に拡散して 金属間化合物を作り接続に関与しています。鉛フリーはんだにおいても Ag の銅への拡散は 少なく、Sn の拡散が主になります。

 

 よって銅とはんだを接続した場合、図 11 に示すよう に、はんだ側には銅へ拡散できなかった Pb が多量に残り Pb リッチ層が形成されます

はんだによる接合メカニズム

 はんだ付けの接続メカニズムについてすこし詳しく考えましょう。接着剤で金属を接着 す場合は接着剤が金属の隙間を埋める働きをして金属を接着させます。例えれば、ガラス 板とガラス板の間に水でぬらしてくっ付けるとぴったりとくっつきますが、水とガラスが 化学反応をしているわけではありません。

 

 接着剤は化学結合説、吸着説、アンカー効果説、 静電気説などが提唱されていますが、いろいろな物質と接合できる接着剤において化学結 合の力は他に比べると弱いと考えられています。

 それに対し、はんだでは基材となる固体金属格子内に進入して化学的な結合を行うこと で結合が完成します。

 これが、はんだ付けと接着剤による接続の大きな違いです※2。

 

 はんだ が作る化学的な結合としては固溶体型拡散層と金属間化合物が考えられています。

 ここで固溶体型拡散層と金属間化合物の違いをすこし説明します。固溶体型拡散層は原 子が基材の原子位置に置換したり基材の内部に入り込んだりすることで基材とはんだの界 面ではんだと基材原子の結晶格子が不規則でありながらも均一に交じり合った状態になる ことを言います。

 

 金属間化合物とは基材原子とはんだ原子と基材原子が結晶格子を作った 状態になることを言います。

 

 

 ※1 Fick の法則は格子欠陥や空孔があるものなど実際の金属への応用は難しい面もあります。

 ※2 はんだもアンカー効果など、接着材の接続メカニズムも併せ持っていますが、金属間での化学結合 が大きな力になっていると考え

   られています。